幼い少女との政略結婚を機に少女愛に目覚めた、若き国王の性愛を描く

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王の少女愛

第四話:観察する娘 その1

 仏頂面を作ったルークは机に肘をつき、目の前の初老の男を睨みつけた。国王である自分が冷ややかに睨みつけてやれば、たいていの人間が怯んでくれることをルークは知っている。
 だが、国務大臣スティングレーだけは違った。門閥貴族どもよりも、よほど優雅な長身を固い姿勢で立たせながら、ルークの不機嫌な眼差しを正面から受け止めても平然としていた。
 しばらく睨みつけていたルークも、諦めて肘掛け椅子に深く身を沈めた。この一部の隙も無い男が、どうも苦手だ。
「僕はモントーレが嫌いだ」
 宮廷画家モントーレの尊大な風体を思い出して、ルークはため息をついた。
 筆頭貴族シュール公爵の引きで宮廷画家の地位を手に入れたモントーレは、門閥貴族派の一人として宮廷に身を置いている。類まれな才能を武器に芸術家としての最高の地位を手に入れたモントーレは、その経歴が彼をそうさせたのか、平民の出でありながら権威主義に手を染め、自分の地位を過剰に意識する男だった。
 絵画に対する興味を養わなかったルークは、特にモントーレに近寄りもせず、近寄らせもせず、今まであまり関わることはなかった。だが、この日、スティングレーはルークの肖像画の作成を提案したのである。
 ルークは幼くして王位についたばかりの頃に、一度肖像画を作成した。その時の退屈が身に染みて、二度と絵の題材になるものかと心に決めている。そのせいで、ルークの肖像は幼い頃のものしか無く、それがスティングレーの提案の根拠なのだが、将来のことを考えるより今を楽しむことを選ぶルークには、自分の容貌を後世に残すことの意義を見出せず、以前からスティングレーが何度も行っていた同種の提案を、ルークは全て蹴っていた。宮廷画家がモントーレになってからは、なおさらだ。
 だが、今回はルークも断りにくい事情がある。
 ルークは先日、ルイーザ・ティナ親子の住居を用意するために、スティングレーに無理を言って金を出させた。しかも、事情を何も聞くな調べるな、という無茶な条件を付け加えて。
 スティングレーは、おそらく女への手切れ金か何かだろうと予測をつけた。それにしては額が破格で、条件も無茶が過ぎるが、スティングレーは黙ってルークの言い分を飲んだ。そのツケを今、鋭く突きつけたのである。
 ルークとしてはむげに断ることは出来ない。だから、宮廷画家への不信を訴えることで、話を後延ばしにした上で、適当にうやむやにしてしまおうと考えたのだが、スティングレーはルークの張った防壁をあっさりと打ち破る。
「では、別の画家に描かせましょう」
 ルークは驚いて身を起こす。
「別の者を見つけております。名はティオーゾ。まだ若く世に知られてはいませんが、画家同心会では高く評価されている新進の画家です」
「おい、待ってくれ」
 流暢に舌を滑らせるスティングレーに、ルークは慌てて手を振った。
 いくら腕があるとはいえ、宮廷画家を差し置いて無名の画家に国王の肖像を描かせたとなれば、宮廷画家の名前に傷がつく。モントーレ本人はもちろん、彼を引き立てたシュール公も強硬に反対するだろう。その矛先がスティングレーだけに向かってくれるならまだしも、ルークにまで口うるさく干渉してきてはたまらない。
「モントーレやシュールをどう説得する」
「モントーレ画伯は今、シュール公の二人の娘の肖像を描いております」
 虚を突かれてルークは目を見張る。
「彼がすでに別の仕事を請け負っていたから、やむなく他の画家に頼んだといえば名分が立ちます。また、王の庇護を受ける宮廷画家たるものが、陛下に一言も無く臣下からの依頼を請け負ったとなれば、背信に値します。彼から宮廷画家の地位を剥奪することもできましょう」
 ルークの懐柔を試みると同時に、門閥貴族派の縮小を巧みに切り出したスティングレーの機敏さに、ルークも舌を巻いた。
 シュール公も一度は反発するだろう。だが、スティングレーが掲げた大義名分に反する根拠は何も無く、また迂闊な自分の依頼が原因になったとなれば立場も無い。自分の体裁を守る程度に反論を張った後、渋々と引き下がるに違いなかった。
 そしてモントーレが宮廷画家の地位を辞すると同時に、肖像作成に抵抗するルークの論拠も消えうせるのだ。
「わかったよ。君の好きなようにやれ」
 ルークの敗北宣言に、スティングレーは軽く一礼して部屋を出て行った。
 スティングレーの姿を見送って、ルークは先ほどよりもひと際大きいため息を吐き出した。あまりにも鮮やかな負けっぷりに、腹も立たなかった。


 翌日、モントーレは宮廷画家の地位を剥奪される。代わって新進気鋭のティオーゾが宮廷に入り、ルークの肖像画を作成することが発表された。シュール公は予想通り反発したものの、自らに非があることも認めてルークに謝罪し、最終的にはティオーゾの宮廷入りを認めた。もちろん、かなり不満を持っていたようだが。
「ティオーゾと申します、陛下」
 初めて会うティオーゾという画家は、貧相な印象を与える小柄な風貌の三十前後の男だった。宮廷に居るより、田舎で農作業でもしていた方がしっくり来そうな男だったが、目だけはやけに力強く輝いているのが印象に焼きついた。
 だが、ルークの気を引いたのはティオーゾではなく、彼の背後に控えている一人の少女だった。大きな瞳と栗色の巻き毛が愛らしい、ローティーンの女の子である。
「私の娘のミリアです。私の助手をしております」
 ティオーゾに紹介され、ミリアと呼ばれた少女は恭しく頭を垂れる。助手も同行するという話はルークも聞いていたが、娘だとは知らなかった。
 肩幅の狭い華奢な体格は父親に似たのだろうが、顔立ちはお世辞にも似ていない。母親の容姿を想像するのを楽しくさせてくれる、可愛い女の子だ。
 同行者はミリアだけで、他の家族や助手はいない。娘を連れてきたにもかかわらず、妻が一緒じゃないということは、すでに死別しているか、それとも結婚せずにどこかの女に生ませた庶子か、どちらかだろう。どちらにしても、改めて問いただす必要のないことだった。
「君たち親子が何の不安も無く絵画の制作に打ち込めるよう、僕は君たちに対してあらゆる援助を惜しまない。何か不便なこと、欲しいものがあればいつでも言ってくれ」
 ティオーゾはルークに感謝の意を示した後、一つ条件をつけた。自分は気ままな人間で、絵を描くためにはどこにでも赴く。身の安定や地位には興味が無いので、肖像画が完成した後の身の処し方は自由にさせてくれ、というのである。
 ルークはほんの少しだけ考え、それを了承した。どんな優秀な芸術家であれ、望まぬところで望まぬ絵を描かせたところで、絵を描く方にも描かせる方にみ何もいいことは無いように思えた。
 ティオーゾ親子は王宮に部屋を用意され、住み込みで肖像画の作成にあたることになった。
 正式に契約が結ばれると、ティオーゾはすぐに肖像画の作成にとりかかる。肖像画を描くといっても、ティオーゾは自分の前でルークを何時間も動かずに座らせておく、というやり方は取らなかった。身も心も装った姿を描くことに彼は興味は無く、モデルが最も輝く瞬間を描かなくては意味がないと思っている。そこでティオーゾは、ルークには普段どおりの生活をさせつつ、自らは常に側につき従い、素描をするという手法をとった。その素描を元に肖像画を生み出すのである。
 ルークは、生活と行動の自由が確保される反面、常に写生帳とチョークを持ったティオーゾに観察されることを強いられた。ティオーゾは気安く声をかけたり、自己主張するような人間ではなかったが、どんな些細な仕草も見逃さんとする彼の鋭い視線は、ルークに少なからず違和感を与えた。
 それでも、指一つ動かすことが出来ない姿勢を強制されるよりは、よっぽどマシであるとも思えた。王侯の生活には随員というものが必ずいる。その随員が増えただけと思えば、なんとか我慢できないでもなかった。
 ルークがこの不便にも、文句一つを言わずに我慢できたのは、ひとえにミリアの存在のおかげだったと言っていい。父画伯に常に付き従って補佐を努める彼女の可愛らしい姿は、ティオーゾの鋭い視線を浴び続けて殺伐となり気味なルークの生活に、柔らかい潤いをもたらしていた。
 だが、ルークに同行するときは常にミリアを連れ添わせていたティオーゾが、ある日から、彼女を連れ歩かなくなった。彼女が姿を見せるのは、ティオーゾが写生帳やチョークを使い切った際に、それを新しいものと交換しにやってくる時だけになった。
 常にルークを観察しているティオーゾは、いち早く気づいたのである。ミリアが姿を見せたとき、ルークが思わず彼女に気を取られるのを。
 華やかに着飾った貴婦人や女官などが他にいれば、慎ましい衣装のミリアが目立つことはないのだが、男だけの場に一人だけ女がいればさすがに目を引いた。ミリアの器量は、あまり世俗的なことには興味の無いティオーゾにとっても、ちょっとした自慢ではある。だが、常にルークを見てチョークを走らせているティオーゾには、そのときにルークが見せる表情の一瞬の変化は、あまり好ましいものではなかった。
 そこでティオーゾは、ミリアを呼ぶのは、写生帳やチョークの交換で作業が止まったときのみに限ったのである。
 それがルークにはおもしろくない。せっかくの綺麗な花をわざわざ隠さなくてもいいじゃないかと思う。しかも、肖像画が完成した後、彼ら親子が宮廷に残ってくれる保証は全くなく、なんとしても今のうちに彼女と親交を深めていたかった。
 とはいえ、ミリアを連れて来いと強制するのもおかしな話だし、ルークからミリアに会いに行くような口実は何も無い。なんとかミリアに会う機会を作ろうと地団太を踏んだ。
「最近姿を見ていないが、ミリアは元気か?」
 ちょうどいい口実を思いつくに至ったきっかけは、何気にルークがティオーゾにかけた言葉だった。
 ティオーゾは、ルークと写生帳に交互に目を向けながら走らせるチョークを一瞬たりとも止めずに頷く。
「ミリアは今、絵画の勉強に励んでおります、陛下」
 言ってから、ティオーゾは少し後悔した。ルークが興味に目を輝かせてこちらを振り向いたからである。表情も姿勢も今までの絵と整合性が取れなくなり、やむを得ず、新たに書き直すために写生帳のページを一枚めくった。
「ミリアも絵を描くのか?」
「はい。いずれは、私と同じ道を歩ませようと考えております」
 ルークはめまぐるしく頭を回転させる。一瞬、ミリアにも自分の絵を描かせることを思いついたが、それではティオーゾへの礼を失することになる。そこで、次善の策を思いついた。
「美を見る目を養い、筆を走らせる技術を磨くのは、やはり実際に絵を描くのが一番だろうな、ティオーゾ」
「その通りです、陛下」
 期待通りの答えを受けて。ルークは身を乗り出す。
「では、こういうのはどうだ? ミリアに、アマリエの絵を描いてもらうというのは」
 さすがにティオーゾは驚いて手を止め、写生帳から顔を上げてルークを見る。非礼を承知でしげしげとルークを見つめるが、冗談を言っているようには見えなかった。
「今、君が描いている王たる僕の絵が後世に残るなら、それと同時期の王妃の肖像画があってもいいはずだ。というより、あってしかるべきだ。それを君の娘が描くというのも一興だろう」
「ありがたいお言葉ですが、ミリアは修行中の身。未熟な腕で王妃様を描くのは恐れ多いことです」
「でも、君の娘だろう」
 ティオーゾの言う理由は至極当然のことだったが、ルークは歯牙にもかけずに撫で切った。
「ティオーゾ。僕は血の力というものを強く信じている。今の僕を王たらしめているものは、僕の身体の中に流れる、神に定められた王家の血だ。なら、ミリアに流れる君の血を信じてもいいんじゃないか?」
 返答に詰まるティオーゾに、ルークは畳み掛ける。
「確かに技術は未熟かもしれない。経験も足りないかもしれない。だが、君の血が生きれば、精魂を込めて描きあげた作品は決して凡作にはならないだろう。そう思わないか」
 ルークの説得に、ティオーゾは心を動かす。彼自身の出生は平凡な商家であり、自分の才能が血統によるものだなどと思ったことは今まで一度も無かった。だが、ミリアに画家の道を歩ませたいという願いは間違いなく、ルークの言うところの「血の力」を信じる気持ちに他ならない。
 思えば、ミリアには自分の補佐をさせるか絵の勉強をさせるばかりで、本格的に絵を描かせたことはなかった。一度、自分の精魂を込めて絵を描かせるのは決して悪いことではなかったし、まして、その相手がファールの華とも言われる王妃アマリエであれば、不足は無い。
 なにより、ここでファール王家との縁故を強めておけばミリアの将来にきっと役立つ、という思惑があった。自分自身は立身出世に興味は無かったが、娘に関しては父としての打算が働いたのである。
「では、不肖ながらお引き受けいたしましょう」

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