幼い少女との政略結婚を機に少女愛に目覚めた、若き国王の性愛を描く

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王の少女愛

第三話:まぶたの妹!? その1

 新婚旅行を終えたルークは、アマリエを連れていよいよ王宮に帰還する。国境の町で結婚式を挙げ、その足で旅行に出かけたアマリエにとっては、初めてのルーク宮だった。
 二人は市内のあちこちで、新しい王妃と若い王の帰りを待ち焦がれていた群集の熱狂的な歓呼に応えながら、夕暮れ近くに王宮に到着した。侍従長が二人を待っており、王宮で結婚祝賀会を兼ねた大舞踏会が用意されていることを告げる。国務大臣のスティングレーが、ルークにも内密で用意していた粋な計らいだった。
 正装に着替えを済ませた二人は、侍従長とともに舞踏の間に向かう。両開きにされた扉からまず侍従長が入り、国王の到着を貴顕たちに告げる。
「陛下のお出ましでございます」
 広間に水を打ったような静けさが広がり、客たちは王座への道を空けて跪いた。ルークはそれを確認し、アマリエに静かに手を差し伸べた。
「行こうか、アマリエ」
「はい、ルーク様」
 アマリエの手を取り、ルークはゆっくりと広間に踏み入れる。
 王座への道を隔てて二つに分かれた群集を軽く見回し、ルークは思わず小さな笑みを漏らした。初めての王宮に緊張気味だったアマリエは、そのルークの笑みを見て彼の余裕を頼もしく思い、安心して彼の腕に身を委ねる。
 だが、ルークが漏らした笑みは余裕からくるものではなく、ちょっとした失笑だった。二つに分かれた集団が、ものの見事に現在の宮廷事情を示していて可笑しくなったのである。
 向かって右の集団の先頭にいるのは国務大臣のスティングレーで、その集団にいるのは、スティングレー閥と呼ばれることが多い、スティングレーの協力者や彼に見出されて地位を得た新興貴族たちだ。
 一方の左の集団の先頭は、王国の筆頭貴族であるシュール公爵。以下に続くのも、古い家柄を誇る名門貴族たちばかりで、まさに現在の宮廷を二分する二大勢力図そのままだった。
 スティングレーは平民の出だが、先王であるルークの父に見出されて宮廷に入り、大臣にまで昇り詰めた。先王の死後は、幼くして即位したルークに代わって王国を支え、現在も事実上の宰相として優れた手腕を振るっている。
 そのスティングレーを疎ましく思っているのは、シュール公爵を筆頭とする名門貴族たちである。彼らは新興勢力であるスティングレー閥に国家中枢を占められているのに不満で、何かとスティングレーらと確執を繰り返してきた。
 飾りだけの王として蚊帳の外に置かれ、宮廷の勢力争いを遠くからつぶさに眺めてきたルークには、この舞踏の間に描かれた滑稽な勢力図は冷笑の対象でしかなかった。
 ルークは彼らの間を悠然と通り抜けると、アマリエを先に座らせ、そして自らも王座に腰を下ろした。
「音楽を」
 待ち構えていた宮廷楽団が音楽を奏で始める。それに合わせて、出席者たちはパートナーの手を取って踊り始めた。
「僕たちも踊ろうか」
 ルークがアマリエの手を取る。アマリエは少し頬を染めて立ち上がり、ルークに促されて広間の中央へと歩み出る。周りで踊っていた客たちがスペースを空けてくれた。
 肩を抱き、あるいは腕を絡ませ、穏やかな笑みを浮かべて踊る二人の姿に、周囲から小さなため息が漏れる。さほど達者といえる踊りではなかったが、息の合った動きには二人の仲の良さがにじみでていた。
 やがて音楽が変わったところを見計らって、二人は周囲に少し気取った会釈をして席に戻る。周囲は若い新婚夫婦に暖かい拍手を送った。
 席に着いたルークは、周囲の祝福の拍手と声を暖かく受け止め、広間を軽く見回す。そして、一つの視線とぶつかった。
「……?」
 それは、アマリエと同年代くらいの、茶色の髪の少女だった。周囲が一様にルークたちに対して拍手や笑みを向けている中で一人、彼女だけは壁際から何か珍しいものを見るような視線で、ただじっとルークを見つめていた。
「このたびは真におめでとうございます」
 その声に我に返ると、シュール公爵の小太りの体がルークの前に跪いていた。
「心よりお祝いを申し上げます、陛下」
「ありがとう」
 言いながら軽く辺りを見回すと、スティングレーの姿は少し離れた位置にあった。本来なら、主催者であるスティングレーが真っ先に挨拶に来るところだろうが、おそらく自己顕示欲の強いシュール公爵が駄々をこねて、スティングレーからその役目を奪い取ったに違いない。スティングレーも実益にしか興味のない男だから、挨拶一つの役目でこの強欲な男が満足するなら安いものと、快く譲り渡したのだろう。
 ルークが丁寧な挨拶を返して、シュール公爵を気分よく下がらせると、それをきっかけに、祝いの言葉を述べに客たちがルークとアマリエの元に相次いだ。
「この度は、まことにおめでとうございます。国王陛下ならびに、王妃陛下」
 最初はルークも気分よく言葉を交わしていたが、似たような言葉が何十回も繰り返されるとさすがに飽きてきて、声をかけられたら適当なお礼の言葉とともに機械的に微笑みを返という「作業」に徹することにした。
 ルークが合間を見て、隣のアマリエの様子を伺うと、ルークなどよりよっぽど丁寧に客たちと挨拶を交わしていた。彼女の愛らしい容姿と穏やかな物腰は、貴族たちにもかなり好感をもたれているようでルークとしては嬉しいが、彼女がこれだけしっかりしていると、疲れたなどとはとてもルークには言えなかった。
「このたびは、まことにおめでとうございます」
 また来た。そう思いながら、ルークは正面へと視線を戻す。そして、相手を見て一瞬驚いた。ルークの前に跪いていたのは、三十がらみの女と、さっき壁際からルークを見つめていた少女だった。二人は綺麗に結い上げた茶色の髪と、大きな青い瞳がよく似ていて、親子であると知れた。
 母親の方は、いかにも女盛りを思わせる妖艶な美人だ。一方の娘は、丸い顔立ちの愛らしい少女だった。
 ふと、ルークはおかしなことに気づく。いくら親子とはいえ女性連れが男性のエスコート無しに舞踏会に来るというのは、かなり奇妙だった。よく見れば、着ているドレスは数年前に流行ったスタイルのもので、なんとか体裁を繕ったという印象が否めない。
「ご結婚、心よりお祝い申し上げます、陛下」
 女が敬虔に目を伏せる。隣りの少女の方は、先ほどと同じようになぜか食い入るようにルークを見つめていて、ルークと目が合うと、あわてて思い出したように顔を伏せた。
 言葉が見つからずに、ただルークが鷹揚にうなずくと、その親子はアマリエにも祝いの言葉を述べ、そして名前も告げずに去っていった。少女が、時折振り返ってルークの方を見つめていたのが印象的だった。
 おかしな親子だ。わざわざ祝いの言葉を述べに来たところを見ると、宮廷と縁故がある、もしくは過去にあったに違いないが、ルークには面識の記憶が無い。それに、母親の動作が礼に則っていた一方、少女の方はこういう場に不慣れのようだった。身分のある者なら、跪きながら国王を直視するなどというチグハグなことは絶対にしない。
 その不審な様子にアマリエも気がついたようで、目を瞬かせてルークを見る。ルークは小さく肩をすくめ、席の後方に控えて立っている侍従長を振り向いた。
「侍従長。今の親子、誰だか知ってるか」
 だが、普段なら即座に何らかの返事をする侍従長が、このときはなぜかルークの声が聞こえなかったかのように、呆然と立ち尽くしていた。
「侍従長、聞いてるかい?」
 再び声をかけると、さらに二秒ほどの間を置いてようやく侍従長は我に返った。
「は、何かおっしゃいましたか?」
「なんだよ、ボーッとして。今の親子、誰だか知っているかって聞いたんだよ」
「あ、はい。今の女は」
 侍従長は言いかけ、急に口をつぐむ。
「あ、いや。誰でしたかな。確かに見覚えはあるのですが、どうも名前が出てきません。年をとると、記憶力が鈍って困りますな」
「やれやれ、困ったもんだな。そのうち僕のことを、どなた様ですか、なんて言い出すんじゃないだろうな?」
 下手な冗談でアマリエを笑わせたルークは、肩をすくめて立ち上がる。
「まあ、いいや。そのうち思い出してくれ」
 ルークはもう一度アマリエに手をさしのべて踊りに誘う。アマリエは嬉しそうに微笑みながら誘いに応じてルークに身を委ねた。


「さて、と」
 まだ幼いアマリエを案じて、あまり遅い時間にならないうちに彼女を部屋に送り届けたルークは、足早に廊下を歩きながら振り向きもせずに侍従長に声をかけた。
「侍従長。さっきの親子は誰なんだ。知ってるんだろ」
 そう問いかけるルークの声は尖っていた。さっき侍従長が言い澱んだとき、彼が一瞬だけアマリエに視線を向けたのを、ルークは見逃さなかった。
「アマリエの耳を気にしなければならないような連中なのか?」
「いえ。アマリエ様には直接の関係はございませんが、まだ幼くいらっしゃるアマリエ様の前では相応しくない話かと」
「ということは、あまりきれいな話じゃないってことだな。誰なんだ?」
「はい、単刀直入に申しましょう、陛下。あの女性は名前をルイーザといい、ルーク陛下のお父上、先王陛下の寵姫だった女性です」
 ルークは大きく目を見開いて足を止める。
「ルイーザはもともと王宮に仕えていた女官でしたが、先王陛下に見初められて後宮に入り、陛下の寵愛を得ました。その後、陛下の崩御にともなって、一時金を与えられて後宮を去り、姿を消したのです」
 ルークは初めて聞く話だった。父王は病気で早世してしまったため、優しい父だったという記憶しかルークにはないが、今の自分を見れば、父もおそらくは好色な人間だっただろうとは想像がつく。愛人がいたっておかしくはないし、そのことで今は亡い父親に対する感情が変わることもなかった。
「かつての父上の愛人か。宮廷にいたのは十数年も前のことだろう。わざわざ祝いの言葉を述べに来るとは律儀な」
 唐突に最悪の予感が浮かび上がり、ルークは言葉を切って思わずうなる。
「ちょっと待ってくれ。じゃあ、あの娘は」
「……ええ。ひょっとしたら、陛下のお考え通りなのかもしれません」
 侍従長は嘆息する。あの娘は、おそらく先王の子なのだろう。ルークにとっては、腹違いの妹ということになる。
「なんてことだ」
 ルークは意外な事態に、呆然と呟いた。
 現在、王家の直系の血を引くのはルークただ一人。正妻アマリエとの間に子どもが無い現状においては、愛妾の子で女とはいえ、先王の実子となれば十分な王位継承資格を持つと言ってもいい。宮廷に騒ぎが起こるのは目に見えていた。
 おそらく、真っ先に騒ぎ出すのはシュール公爵だろう。筆頭貴族として王国の貴族社会の頂点にいる公爵家の次なる野望は、王族の一員に名を連ねることだ。かつて公爵が、二人いる自分の娘のどちらかをルークに嫁がせようとしていたことを、ルークは人づてに聞いて知っている。
 結局、スティングレーがルークとアマリエの婚姻話を決めてしまったので、公爵はスティングレーに恨みを抱きつつ野心を断念したのだが、公爵にはルークと同い年の息子がいる。今度は息子を、ルークの腹違いの妹となるあの少女と結婚させようなどと言い出すに決まっている。
「なんだって父上は、こんな大事なことを僕や君にまで隠していたんだ、まったく」
「いえ、そうではありますまい、陛下」
 侍従長が静かにルークをいさめる。
「ルイーザは、先王陛下の晩年に後宮に入りました。そのルイーザが子供を生んだとすれば、先王陛下が亡くなってからのことでしょう」
「じゃあ、父上も知らなかったってことか」
 ルークはうなる。そうだとすれば、先王の名誉も多少は守られるだろうが、それでも醜聞は避けられそうに無い。結婚したばかりでアマリエの生家チップ王家への体面もあるし、なにより、自分の一族がこうも好色な血であるということを、アマリエに知られるのは心の痛むことだった。
「陛下。差し出がましいことを申し上げるようですが」
「なんだい?」
「今の今まで、先王陛下の子かもしれない娘をひそかに育てていたルイーザが、今になってそうと知れる行動に出てきたとなれば、彼女にそうしなければならなかった理由のようなものがあったと思うのです」
 ルークは小さくうなずく。例え積極的に主張したりしなくとも、先王の愛人だった女が子供を連れて姿を見せれば、誰だってその出生を疑うものだ。ルイーザがその危険をあえて冒してやってきたのには、やっぱりそれなりの理由があると見たほうがいい。
 おそらく、結婚のお祝いというのは口実に過ぎず、真の目的はルークにとって腹違いの妹に当たるあの娘を、ルークに顔見せすることにあったのだろう。その裏にどのような意図があるのかまでは、わかりようもなかったが。
「よし、侍従長。密偵を使って彼女らの居所を探し出そう。居所が分かれば、僕自らがルイーザに会いに行く」


 五日後、ルークが放った密偵がルイーザ親子の居所を掴む。待ちかねていたルークは、侍従長を連れてお忍びで親子の元へと赴いた。

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